魅惑ボイス−それを罪と呼ぶのなら−
「凛!?凛!どうしたの!」
凛の悲痛な叫び声はキッチンまで届いていたらしく、部屋の外から母親の声が聞こえてくる。
元々凛は自室に入ると鍵を掛ける癖があり、母親は入ってくることが出来ずに居た。
自分の何気ない行動に“救われた”と思った。もし母がこの光景を見れば発狂するだろう。
絶え間なく、ガチャガチャと回るドアノブ。娘の危機に母親は何度も扉を開けようとする。
凛は慌てて動悸をする胸を押さえながら言った。
「く、蜘蛛が、出っ、ただけだから…っ、」
出たのは蜘蛛どころか鶏の死骸だ。それを態々言う筈もなく凛は嘘を付いた。充満する異臭と吐き気に苛まれながら――…。