魅惑ボイス−それを罪と呼ぶのなら−
「蜘蛛!?本当に!?本当に大丈夫なのね!?」
「う、ん。」
「はぁ。たかが蜘蛛ごときでそんなに叫ばないで頂戴。何かあったのかと思ったじゃない。」
「ご、ごめん。」
扉越しに会話をする。本当に“蜘蛛ごとき”なからどれだけ良かったか。あるのは血と嘔吐物と死骸と腐った臭い。
あまりの動悸の激しさに凛は目を瞑る。
耳を澄ませば母親が悪態をつきながら階段を降りていく音が聞こえる。
『行かないで』と言えたら
『1人にしないで』と言えたら
『助けて』と言えたら
どれだけ気楽なんだろうか。
でも言えない。こんなムゴイ物を母親に見せることなど凛に出来る筈がなかった。