一夜花
 浩一は腕の中の女を改めて見やった。
 白く、肌理の細やかな『人間』の体。クルリと黒目がちな瞳で見つめ返す『人間』の顔。そして、恐れ縋るように強く絡む『人間』の四肢

 本能を灼く渇望感に、浩一の喉がゴビリと鳴った。

 誘われている……花粉を運ぶコウモリが一夜の蜜に魅かれ寄るように、焦がれるほどの想いに惹かれ堕ちて行く……
 このまま体を返して陽焼けた畳に沈めても、この女は抵抗すらしないだろう。
 心無く体だけを愛したとしても……

 それでも浩一は、白い肌をなぞろうとする無意識をなだめて、その体を押し返す。

「名前は?」

「彼女さんの代わりに……マオと呼んでください」

「そんな抱き方ができるほど器用じゃないよ」

「でも、私はただの花です。たった一輪の花に名前をつけてくれる人なんて……」

「月」

 唐突に呼ばれた『名前』に、彼女は顔を上げる。

「簡単すぎるかな?」

「つ……き?」

「さあ、開花までに帰らなくちゃいけないから、さっさと出かけよう。」

 浩一は細い腕を引いた……咲き始めた花びらに触れるように、そっと。
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