机の人形
第1章
本日は晴天なり
雪の日。
雪が好きだ。
雪の日には、雪だるまを作り、雪合戦をした。
吐く息が白く、鼻からもでてそれを母と笑いあう。
「目は何で作る?」
「ハナのボールもってくる。」
ラブラドールのハナは、真っ黒のぬれた目で飼い主の所業を許してくれる。
ハナの茶色の毛皮が雪にぬれて冷たい。
しっとりとした毛皮の下に感じる体温が好きだ。
しゃっつ、しゃっつと雪かきする音。
雪にかき消され、しんとした周囲の風景。
子供っぽい私の様子を母が心配していることは分かっていた。
予備校。
私は誰もいない廊下にたたずむ。
ガラスに隔てられた恋人の笑顔を見かけじっと見つめた。
恋人はそんな顔をしたことはない。
私だけに笑いかけたりしない。
彼が私に笑いかけるのは自分の好きなものに囲まれているときだけだ。
今も彼の周りには、彼を慕う男女問わない人間が取り巻き、大声で、しまいには体をよじって笑っている。
予備校が好きだ。
私は恋人にそのことを絶対に言わない。
「まだ帰られない。」
携帯にはいつものように既に彼からのメールが入っていた。
自分が待っていたことを恋人に言っていないし、言うつもりもない。
彼の笑っている顔を見ただけで満足だった。
家に帰り、ベッドに横になると甘いリネンの香りがした。
よく知った私の日常。
庭には昨日作った雪だるまが半分以上崩れ、鼻につかったボールが落ちていた。
母やハナ、転がったボール。
愛しい日常がここにはある。
夜。
自室に置いた一人がけのソファに恋人が座っている。
「お前のことがぜんぜん分からないよ。」
闖入者に体が縮こまる。
「分からなくて、不安だ。」
と。
予備校から帰り、恋人は私の自宅にやってきた。
好物のチョコレートつきで。
食べている様子をじっと見つめているうちに、恋人の顔は緩んできた。
それをだいなしにする。
「フロンテイア3ってしってる?」
恋人は顔をしかめて、
「知らない。」
と、言った。
「知らないんだ。」
「何かの薬?」
私は安心した。本当に何も知らない。
「顔色が悪い。」
一言そういうだけだ。
独り言のようにつぶやく。
「死にたい気分なの。ただ、元気。
予備校にいたり、一人でいれば、平気。
いろいろ変わるの。私は死にたいけど、そうはならないから。
とても悲しいんだ。」
「相変わらずめちゃくちゃだな。」
ベッドに半分体を倒した私にゆっくりと唇が近づく。
雪が好きだ。
雪の日には、雪だるまを作り、雪合戦をした。
吐く息が白く、鼻からもでてそれを母と笑いあう。
「目は何で作る?」
「ハナのボールもってくる。」
ラブラドールのハナは、真っ黒のぬれた目で飼い主の所業を許してくれる。
ハナの茶色の毛皮が雪にぬれて冷たい。
しっとりとした毛皮の下に感じる体温が好きだ。
しゃっつ、しゃっつと雪かきする音。
雪にかき消され、しんとした周囲の風景。
子供っぽい私の様子を母が心配していることは分かっていた。
予備校。
私は誰もいない廊下にたたずむ。
ガラスに隔てられた恋人の笑顔を見かけじっと見つめた。
恋人はそんな顔をしたことはない。
私だけに笑いかけたりしない。
彼が私に笑いかけるのは自分の好きなものに囲まれているときだけだ。
今も彼の周りには、彼を慕う男女問わない人間が取り巻き、大声で、しまいには体をよじって笑っている。
予備校が好きだ。
私は恋人にそのことを絶対に言わない。
「まだ帰られない。」
携帯にはいつものように既に彼からのメールが入っていた。
自分が待っていたことを恋人に言っていないし、言うつもりもない。
彼の笑っている顔を見ただけで満足だった。
家に帰り、ベッドに横になると甘いリネンの香りがした。
よく知った私の日常。
庭には昨日作った雪だるまが半分以上崩れ、鼻につかったボールが落ちていた。
母やハナ、転がったボール。
愛しい日常がここにはある。
夜。
自室に置いた一人がけのソファに恋人が座っている。
「お前のことがぜんぜん分からないよ。」
闖入者に体が縮こまる。
「分からなくて、不安だ。」
と。
予備校から帰り、恋人は私の自宅にやってきた。
好物のチョコレートつきで。
食べている様子をじっと見つめているうちに、恋人の顔は緩んできた。
それをだいなしにする。
「フロンテイア3ってしってる?」
恋人は顔をしかめて、
「知らない。」
と、言った。
「知らないんだ。」
「何かの薬?」
私は安心した。本当に何も知らない。
「顔色が悪い。」
一言そういうだけだ。
独り言のようにつぶやく。
「死にたい気分なの。ただ、元気。
予備校にいたり、一人でいれば、平気。
いろいろ変わるの。私は死にたいけど、そうはならないから。
とても悲しいんだ。」
「相変わらずめちゃくちゃだな。」
ベッドに半分体を倒した私にゆっくりと唇が近づく。
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