机の人形
第2章

変わらぬ日常

いつもと同じ日常を送っている。
同じ時間に起きて、母の手料理を食べ、予備校に通い。
たまに書店をのぞく以外は、同じ時間に帰る。
ハナの散歩も行く。
いつもより食べるので、母は機嫌がいい。
でも、最悪の気分でいくら食べても食べた気はせず、空腹が続いた。

恋人のことを考えたことはない。
不思議なほど全く。

それが
だんだんと
勉強のことやハナのこと、友人のこと。
それから、恋人のこと。
頭の中がそれだけになって、体中にずっしりとからみつき、わずらわしい気持ちでいっぱいになった。

何も手につかず、部屋に閉じこもりがちになった。
お風呂も億劫になって、鏡を見るのが怖くなった。

自分の体を見ることができない。

恋人から何度も連絡が入る。
私を心配しているのかもしれない。

母が部屋をノックする。
遠慮がちに入ってきて
「顔色が悪いわ。」
と言うので
「気分が悪い」
と答えた。
母は、芸能誌の話をして
「面白いわね。」
と言った。
テレビはその話題で持ちきりらしい。

「知ってた?沙織?」
母が聞いた。
「もちろん。だってあの女優、新しいドラマの前っていつもそういう話題だしてくるじゃん。」
母は微笑み、
「なるほどね。」
とはじめて聞いたように答えた。
そういったのは母なのに。
母の言葉は、本当の肯定だった。
「恋って面白いわね。嘘でもできるんだから。」
私はかっとした。
「できるわけないじゃん。」
すぐに母は答えた。
「そうね。面白くないし、嘘じゃできないわね。」
それから
「恋なんておもしろいばかりじゃないしね。」
と小さくつぶやいた。
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