桜の咲く季節に
彼もそう思っていたのか少し笑って言った。


「そういう結城だってあからさまだと思うけど?」


ぱちりと瞬きをした。
目を閉じていたのに何故わかるんだ。
千里眼でも持ってる?
思わず彼の額を凝視してしまう。


でも彼の言葉通りだった。
確かにそうだ、と返事をしたかった。
だけど。だけど、会話した嬉しさとか、今笑ってはいけないこの状況とか、名前を呼ばれてくすぐったい気持ちになったとかそういうもの全部に耐えられずクスクスと笑ってしまった。

もちろん小声で。


彼はそんな私の姿を不思議そうに見ていたけれど、次第に笑いが移ってしまったのか小さく笑った。


「変なやつ。」


校歌を歌い終わって、偉い人の話を聞いて、卒業証書授与も終わった。
授与と言っても、一人一人の名前を呼ばれその場に立ち、全員の名前を呼び終わったら、クラスの代表が卒業証書をまとめて受けとるというもので、立っているだけのこちらとしては受け取った気がしない。


その後も式は淡々と進み、あとは卒業生の退場のみとなった。
私は卒業生退場をちょっと楽しみにしていた。
なぜなら、退場曲は吹奏楽部が演奏するのである。
可愛がっていた後輩の演奏する姿を見るのは感慨深いもので、この時一粒の涙が流れた。


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