それでも、愛していいですか。
立ち上がり、リビングに戻ると、美咲は阿久津の顔をまじまじと見つめ、
「家にいる時くらい、その眼鏡、はずせばいいのに」
と少し不満げに呟いた。
阿久津は美咲のそれにはなにも答えず、冷蔵庫を開けて麦茶を取り出すとコップに注ぎ、黙ったままダイニングテーブルの上に置いた。
「ありがとう」
阿久津が入れた麦茶を、美咲は立ったまま口に含んだ。
「涼介さん、今日は休み?」
「ああ。昼から少し学校に行くけど」
「そっか。私は今から仕事」
「お疲れ様」
「お店にはお盆もお正月もありませんからね」
そう言って、コップをテーブルの上に置いた。
「さ、もう行くわ。店長が遅刻するわけにはいかないから」
バッグを肩にかけ、ふぅとため息をつく。
「すまなかったな」
阿久津は軽く頭を下げると、目を覆った前髪をかきあげた。