それでも、愛していいですか。
「奈緒ちゃん」
喫茶店のいつもの席で、君島は身を乗り出している。
「奈緒ちゃんってば」
「あ、は、はい」
「お水、おかわりちょうだい」
「はい」
君島に差し出されたグラスを受け取ろうとした瞬間、握り損ねたグラスは奈緒の手をすり抜け、床に落ちた。
ガシャン――
グラスが割れて、破片が床に飛び散る。
「す、すみません」
奈緒は、これ以上腰が曲がらないというところまで頭を下げた。
慌ててほうきとちりとりを取りに行く。
なにをやっているんだ、私は。
自然と目頭が熱くなった。
歯を食いしばりながら、飛び散ったグラスの破片を片付ける。
「奈緒ちゃん、大丈夫?」
君島が椅子から降りて、グラスの破片を拾おうとすると、
「大丈夫。大丈夫ですから」
と、その優しさをかき消すように、もくもくと破片を片付けカウンターの奥に消えた。
先生、お願い。
やさしくしないで。
これ以上優しくされたら、私、涙が溢れてきちゃうから。