それでも、愛していいですか。
奈緒は、大きく深呼吸をしてから店内に戻ると、新しいグラスに水を入れて、何食わぬ顔で君島にグラスを出した。
君島は、奈緒の目が真っ赤になっているのにまったく気付かないふりをして、
「おっちょこちょいだなぁ。奈緒ちゃんは。ねぇ、マスター、あのグラス代、奈緒ちゃんが弁償するんでしょ?」
ととびきり明るく言った。
突然話を振られたマスターは、「ん?」と目を丸くしたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。
「すみません」
奈緒が小さな声で君島にそう言うと、
「僕はいいから、マスターに謝っておきな」
とにんまり笑った。
「それよりさ」
「なんですか?」
「奈緒ちゃん、今、いくつ?」
突然意味のわからない質問をするので、思わず眉をひそめた。
「ハタチですけど」
よくわからないままそう答えると、君島はにやりと笑って、
「じゃ、今から、付き合ってくんない?」
と言う。
「はい?」
「だから、もう少しでここ閉店でしょ?その後、僕に付き合ってって言ったの」
なんで?
どういうこと?
んん??
「なにか用事ある?」
「べ、別にないですけど……」
「じゃあ、決まりね」
君島は「ふふ~ん」とあやしげな笑みを浮かべている。
とたんに不安になった。
この人はいったいなにを企んでいるのだろう。