それでも、愛していいですか。
君島の行きつけの店にはすぐに着いた。
重厚な木の扉には、「Bar Moon」と書かれている。
君島が慣れた様子で扉を開けると、カウンターだけの狭くて薄暗い空間が現れた。
カウンターの後ろの壁には、お酒のボトルが所狭しと並んでいる。
「いらっしゃい。リンちゃん」
カウンターの中の男性が君島にそう声をかけた。
その男性は黒髪で短髪、耳にはピアスをしていて彫りの深い顔をしていた。
「リンちゃん?」
君島の影に隠れながら、思わず口に出してしまっていた。
そういえば君島の名前が麟太郎(りんたろう)だったことを思い出し、リンちゃんと呼ばれていることに一人納得していると。
「今日はずいぶんかわいいお連れさんと一緒だね」
君島の後ろに隠れているところをその男性に覗き込まれ、どきっとした。
「僕の友達だよ。奈緒ちゃんって言うの」
友達だと紹介されて少し驚いたが、とりあえず「こんばんは。相沢奈緒です」と挨拶した。
「僕は、シュン。よろしくね。ささ、そんなとこに突っ立ってないで、座ってよ」
シュンは他の客とは少し離れた隅の席を勧めた。