それでも、愛していいですか。
「あの男は単語しか話せないのか」
携帯をポケットにしまいながら呟く。
「なんだか、ずいぶん乱暴なやり方だなぁ」
シュンは腰に手をあて、君島を見つめる。
「いいんだよ、これで。なっ。奈緒ちゃん」
「いいよいいよお」
ふにゃふにゃになっている奈緒は、ふらふらしながら何度もうなずいた。
「絶対、今のこの状況、理解できてないと思うんだけど」
シュンは心配そうに奈緒を眺めた。
しばらくすると、店の重厚な木の扉が開いた。
そこには普段着の阿久津が立っていた。
「あくつせんせぇ、あくつせんせぇ」
阿久津が背後にいるのにまったく気付かず、奈緒は名前を連呼している。
君島は椅子から立ちあがり、
「すみません。夜分遅くに呼び出してしまって。ずっとこの調子なんですよ」
と言って奈緒を眺めた。
「帰ろうと言っても、嫌だと言ってカウンターに張りついてしまって」
君島はこめかみをぽりぽりと掻いた。