それでも、愛していいですか。

「かえりたくないよ」

うわ言のように呟く。

「そういうわけにはいきません」

「かえりたくないもん……一緒にいたいよぉ」

「鍵、ありますか?アパートの鍵」

阿久津がそう言った時。

奈緒は阿久津のパーカの袖を掴んで、そのまま阿久津の胸に顔を埋めた。

「ちょっ……」

「これからどうしたらいいか、わかんないよぉ」

その声がうわずっているのがわかった。

「相沢さん……」

突然のことにどうしたらいいか戸惑いつつも、そっと奈緒の背中に手を置いてしまった。

「かえりたくないよぉ。かえりたくないよぉ」

阿久津は「はぁ……」と大きなため息をつき。

「わかりました」

もう一度、車を走らせた。

「……なにをやっているんだ、俺は」





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