それでも、愛していいですか。
初めて、阿久津の妻を見た。
やわらかい笑顔を浮かべたその女性は、素敵だった。
隣の赤ちゃんもかわいらしい笑顔をこちらに向けている。
胸が絞めつけられた。
こんなに大切な人を二人も失った哀しみは、どれほどのものなのだろう。
世界から色が消えてしまって、モノクロになってしまうのではないだろうか。
……先生は、笑わないのではない。
笑えないのだ。
奈緒はそこに正座し、静かに目を閉じ手を合わせ、目の前の二人に謝った。
大切な三人の空間に、知らない間にとはいえ、上り込んでしまったことに、ひどく罪悪感を覚えたからだ。
長い間、手を合わせていた。
その様子を阿久津は静かに見守っていた。
目を開けてもう一度、二人の写真を眺める。
家族。
ここで、営まれていた家族の暮らし。
『私は、妻を殺したのだよ』
あの時の台詞が頭をよぎる。
この家族には、いったいなにがあったのだろう。
こんなに幸せそうな笑みを向けているのに。
奈緒はゆっくり立ちあがった。