それでも、愛していいですか。

そう言って阿久津は牛乳がたっぷりはいったコーヒーをごくごくと飲んだ。

「そうなんだぁ」

急に阿久津が身近に感じられた。

完璧で冷徹な阿久津准教授はそこにはいなかった。

「先生は、コーヒーに牛乳を入れる派なんですね」

「苦いのは苦手なんです」

それを聞いて奈緒はふふっと笑った。

思い出した。

加菜が言っていた苺のミルフィーユ。

「ひょっとして、先生って甘党なんですか?」

「はい」

奈緒がくすっと笑うと、阿久津はうつむいたまま、眼鏡の上からちらりと上目遣いで奈緒を見た。

その仕草に、胸がきゅんとした。

もしかすると、先生は実はかわいい人なのかもしれない。

黙々と食べる阿久津を眺めてそんなことを思った。

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