それでも、愛していいですか。

振り返ると、ジーパンのポケットに手を突っ込んだ孝太郎がまっすぐ見つめていて。

「俺さ。……加菜ちゃんとつき合ってみようと思う」

とっさに言葉が出てこず、しばらく孝太郎を見つめてしまった。

感じてしまったのだ。

これは、自分への決別宣言のようなものなのではないか、と。

自分たちは、これからも兄弟のような関係。

ただ、それだけの関係でいよう、と。

孝太郎のことは、好き。

たとえ親友の加菜でも誰かのものになってしまうことには、やはり寂しさを感じる。

しかし、やはり、孝太郎の気持ちには応えられないのなら……。

奈緒は、そっと笑みを浮かべ、静かに頷いた。

すると孝太郎は、小さく頷き、そして、奈緒に背を向けた。

奈緒はしばらくの間、孝太郎の背中を見送っていた。

颯爽と歩く彼は。

確かに前を向いていた。



< 157 / 303 >

この作品をシェア

pagetop