それでも、愛していいですか。
振り返ると、ジーパンのポケットに手を突っ込んだ孝太郎がまっすぐ見つめていて。
「俺さ。……加菜ちゃんとつき合ってみようと思う」
とっさに言葉が出てこず、しばらく孝太郎を見つめてしまった。
感じてしまったのだ。
これは、自分への決別宣言のようなものなのではないか、と。
自分たちは、これからも兄弟のような関係。
ただ、それだけの関係でいよう、と。
孝太郎のことは、好き。
たとえ親友の加菜でも誰かのものになってしまうことには、やはり寂しさを感じる。
しかし、やはり、孝太郎の気持ちには応えられないのなら……。
奈緒は、そっと笑みを浮かべ、静かに頷いた。
すると孝太郎は、小さく頷き、そして、奈緒に背を向けた。
奈緒はしばらくの間、孝太郎の背中を見送っていた。
颯爽と歩く彼は。
確かに前を向いていた。