それでも、愛していいですか。
忘れ物
秋が深まる頃になると、木の葉は様々な色に変わり、やがてしがみついていた枝から一枚、また一枚と去っていく。
日に日に夜が長くなり、なんとなく侘(わび)しさを感じる。
真冬より、人肌恋しい季節かもしれない。
学校への道のりを歩いていた奈緒は、イチョウの葉を一枚拾い上げた。
指先でつまんで、くるくると回転させてみる。
葉が落ちるこの季節は好きではなかったが、イチョウの葉は好きだった。
色も形もかわいい。
思わず笑みがこぼれた。
「おはようございます」
突然後ろから声をかけられ、びくっとした。
イチョウを持ったまま振りかえると、阿久津が立っていた。
「おはようございます」
とっさにあいさつをしたが、慌てていたので声が上ずった。