それでも、愛していいですか。
あの朝帰り以来、ゼミで顔を合わす程度でまともな会話はしていなかった。
あの日のことを思い出し、身体が熱くなるのがわかった。
それとはうらはらに、阿久津は相変わらず涼しい顔をしている。
「今日は、冷えますね」
そう言うと、阿久津は奈緒の隣りに並んで歩き始めた。
阿久津のコートが時折奈緒の腕に当たる。
そのたびに、胸が熱くなった。
「そうですね」
奈緒は地面を見つめたまま呟く。
自分の顔が赤くなっているのがわかっていたから、顔を上げられなかった。
「進路、悩んでいますか?大丈夫ですか?」
阿久津は前を向いたまま、優しく尋ねた。
ちらりと阿久津を見上げる。
長いまつげが目に入った。
横から見ると、まつげが目に覆い被さるほどだ。
「まだ、考え中なんですけど……」
「けど?」