それでも、愛していいですか。
さっきの女性が乗ってきたエレベーターに乗り込む。
密室に、二人きり。
コートに含んでいる雨水が、ぽたりぽたりと床に落ちる。
阿久津は、奈緒の手をそっと握ったまま離さなかった。
その手は、少し節のある大きな手だった。
男性の手。
トクン、トクン。
大きく波打つ鼓動が手を伝って届いてしまいそうだ。
エレベーターの扉が開くと、阿久津は黙ったまま奈緒の手を引き、自分の部屋の前まで行って玄関の戸を開け、そして。
ガチャン。
玄関の戸が閉まる音が、いやに大きく響いた。
戸が閉まると同時に、阿久津は玄関の戸に肩からもたれかかり、そのままずるずると床に座り込んでしまった。
「大丈夫ですか!?」
奈緒はしゃがんで阿久津の顔をのぞきこむ。
いつもの涼しい目はそこにはなく、ただ呆然と宙を眺めていた。
「風邪ひいちゃいます……とにかく、早く温まってください……」
奈緒は阿久津の大きな体をなんとか起こし、靴を脱いで浴室の方へ導いた。