それでも、愛していいですか。

頬を包んでいる阿久津の手に、温かい雫が伝う。

阿久津は優しく唇を離すと、涙で濡れている奈緒のまつげを切なげに見つめた。

「ごめん……」

両手で頬を包んだまま、親指で涙を拭う。

奈緒は首を横に振って、

「謝らないでください……」

とかすれた声で呟き、阿久津の胸に顔をうずめた。

阿久津はもう一度、奈緒を強く抱きしめた。

「今日は、こうしていたい……」

阿久津の甘い囁きに、奈緒はその腕の中で、静かにうなずいた。

今日は……って、そんなこと、言わないで。

私は……ずっと、がいい。

私はずっと、そばにいたい。

ひっそりと伝わる阿久津の鼓動を、身体中で感じていた。









< 187 / 303 >

この作品をシェア

pagetop