それでも、愛していいですか。
失格
「これ、頼まれていたカーディガンね」
美咲は平静を装って、紙袋を阿久津に渡した。
阿久津は美咲の勤める店にいた。
以前頼んであったカーディガンを仕事帰りに取りに来たのだ。
「ありがとう」
紙袋を受け取り、踵(きびす)を返そうとした阿久津を、
「ちょっと待って」
美咲が呼びとめた。
「なに?」
涼しい目が美咲を射る。
その視線が、痛い。
阿久津の研究室で唇を奪い、「帰ってくれないか」と追い出されてから今日まで、カーディガンの注文のメールを受け取っただけで、電話もしていなければ、一度も会っていなかった。
しかし、カーディガンを注文してくれたということは、あの時の不愉快さずっとを引きずっているわけではないのだろう、と思い、少しほっとしていた。
「話したいことがあるの。もう少しで閉店だから、一緒に夕食でも……」
研究室での失敗がどうしても拭い去れず、おどおどしていたが。
「ああ、いいよ」
阿久津はあっさり了解した。