それでも、愛していいですか。
この鉛筆で
奈緒は緊張した面持ちで、実家の玄関の戸を開けた。
明日、わかば福祉専門学校を受験するために、そして母が持ちかけてきた就職の話を断るために帰省したのだ。
母はいつものように「おかえり」と迎え入れた。
荷物を自分の部屋へ置き、居間へ戻ると、母は温かい番茶を入れてくれていた。
一口飲むと、その温かさが身体中に、そして心にまで染み渡った。
一人暮らしをしていると、こんな些細なことがありがたく感じる。
それから母は、近所の誰それが結婚したとか、孝太郎くんは元気なのかとか、他愛もない話を繰り広げ、奈緒はなかなか本題に入ることができずにいた。
かと思えば突然、母の方から、
「あの話、どうするの?」
と切り出され、思わず番茶を吹き出しそうになった。
慌ててごくりと飲み込み、湯呑をテーブルに置く。
そして、大きく深呼吸をし、ゆっくりと切り出した。