それでも、愛していいですか。
そうかと思えば、突然君島は真顔になって腕を組み、
「それよりさ。阿久津先生にはもう報告したの?」
と、奈緒の顔をのぞき込んだ。
突然阿久津の名が出てきて、どきっとした。
「……まだです」
「僕より先に、阿久津先生でしょう。担任なんだし」
と言った君島の言葉には、明らかに違う意味も込められているのがわかった。
口の端がにやついている。
「そうだ。阿久津先生に合格報告するついでにさ、勢いでクリスマスにデートにでも誘っちゃえば?とりあえず進路は決まったんだしさ」
突然なにを言い出すんだ、この先生は。
「勢いでって、なんの勢いなんですか」
「人生の勢い」
君島はにやりと口角を上げる。
「でも……」
「ま、とりあえず、合格報告しておいでよ」
君島はそう言いながら、奈緒の背中を押して研究室の入口まで押しやった。
「ちょ、ちょっと、先生!」
「ささ、今日はまだ阿久津先生、研究室にいるだろうから。じゃね」
君島は、研究室の扉を開け奈緒を廊下へ追い出し、ぴしゃりと扉を閉めてしまった。