それでも、愛していいですか。
報告すべきことはした。
鉛筆のお礼も言えた。
用はこれで済んだはずなのに、奈緒はその場からまだ動けずにいた。
加菜の言葉が頭の中を占領していたからだ。
『それって、奈緒が特別ってことじゃない!』
先生にとって、私は少しくらいは特別な存在なんだろうか。
キスをしたあの日以降は、いつもとなにも変わらないのに。
大人にとって、キスって何なんだろう。
日々の出来事として流してしまえることなんだろうか。
私にとっては、とてもとても特別なことだったのに。
うつむいたまま黙り込んでいる奈緒に、
「どうかしましたか?」
阿久津は穏やかに声をかけた。
奈緒は黙って下を向いたまま、スカートをぎゅっと握りしめている。
人気のない廊下に重苦しい空気が沈殿している。
その時、ふと阿久津が口を開いた。