それでも、愛していいですか。
背中が広い。
座っているが、背が高そうなのがわかった。
奈緒と加菜がそろそろと研究室に入ると、「どうぞ、座ってください」と言って、ようやく阿久津は振り向いた。
その顔を見た瞬間。
「あ」
奈緒は思わず声を漏らしてしまった。
目の前にいる准教授は、あの時、車から救ってくれたあの命の恩人だったのだ。
「どうしたの?」
「う、ううん。なんでもない」
動揺を隠しきれずかぶりを振りながら、ちらりと阿久津の顔を見ると、ふと目が合った。
眼鏡越しに見える切れ長の目は、表情ひとつ変えない。
覚えていないのだろうか。
そうこうしているうちに、他のゼミ生も研究室に入ってきた。
民法ゼミは全員で七人だった。
全員が机を囲んで輪になって座る。
奈緒は阿久津の隣りだった。
阿久津の腕が数十センチのところにあるだけで、緊張する。