それでも、愛していいですか。
「涼介はいくつになった?」
その問いに、阿久津も振り向くことなく、
「35だ」
と、さらりと答えた。
すると、正太郎は大きく息を吐き、
「そうか。まだ、35か」
と、しみじみ言った。
その言葉がやけに胸に突き刺さった。
まだ、35歳。
まだ……。
「なあ、涼介」
「ん?」
「私はな。もうそんなに長くはない。みんなひた隠しにしているけど、自分の体のことだ。わかるんだよ」
正太郎は、窓の外を飛んでいる雀を目で追っている。
阿久津もまた、なにも答えることができず、雀を目で追うだけだった。
「……今日は、ありがとう」
正太郎がぽつりと言った。
「……いや」
二人は視線を合わすことのないまま、窓の外の景色を見つめていた。