それでも、愛していいですか。
奈緒は、今自分の隣りに座っているこの准教授と、あの時、自分を助けてくれた人物が同一人物だとは、到底信じられなかった。
明らかに、温度が違う。
今、自分の隣りで話している准教授は、なんだか冷たすぎる。
しかしやはりどう考えても、同一人物にしか思えない。
ゼミ初日の今日は、今後のゼミの進め方についての説明で終わった。
それは本当に淡々としたものだった。
「では、早いですが、今日のところはこの辺で終わります」
阿久津が早々に切り上げると、ゼミ生は研究室を出て行った。
「奈緒、行くよ」
加菜が振り向きながら促す。
「ごめん、先に行ってて」
「ん?わかった」
加菜はなにかを察したようだったがそれ以上は突っ込まず、そのまま研究室を後にした。
「あのっ、阿久津先生」
奈緒は緊張しながら、書類を片付けている阿久津に声をかけた。
「はい」
阿久津は座ったまま、奈緒を見る。
鋭い視線に思わず目をそらせてしまった。