それでも、愛していいですか。
「……多分、違うよ」
「どうして?」
「う、ううん。なんとなく」
そう言って笑ってごまかすのが精いっぱいだった。
淡い気持ちを打ち砕いたさっきの冷たい空気を思い出すと、胸がちくりとした。
そこへ、同じ民法ゼミの美穂と藍がやって来た。
「ねぇねぇ!阿久津先生、格好よかったねぇ!あたし、びっくりしちゃったよぉ」
「私も私も。あのクールな感じがいいよねぇ」
美穂と藍は目をきらきらさせている。
「君島先生だけだったもんねぇ。イケメン先生は」
加菜が笑いながらそう言うと、
「ほんとほんと。後は個性の強すぎるオジサン先生ばっかだもんね」
なんてことを美穂が言うので、みんな大爆笑してしまった。
……そうか。
あのルックスなら誰だって格好いいと思って当然だ。
みんなより少し早く、あんな形で出会ってしまっていたから、どこかで自分は特別だと思っていた。
当然ながら、阿久津先生はみんなの先生なのだ。
「ねぇねぇ、ゼミのみんなでさぁ。先生の歓迎会しない?」
美穂の提案に、全員が賛成した。
「じゃ、さっそく先生に都合のいい日、聞いてみるね」
楽しみだね、とみんなが盛り上がる輪の中、奈緒は歓迎会で談笑している阿久津が、どうしても想像できずにいた。