それでも、愛していいですか。
『阿久津くんを救えるのは、やっぱり愛だと思うんです』
『どうか、阿久津くんを、許してあげてくれませんか』
『阿久津先生には奈緒ちゃんが必要ってことだよ?』
『慈悲深いねぇ……』
マスターは約束をすっぽかしたことだけを許してあげて、と言っているわけではなかったんだ。
阿久津先生の過去も、なにもかもを、受け入れてあげてほしい、ということだったんだ。
阿久津先生を救えるのは、愛だけ。
愛するということは、受け入れること。
受け入れるということは、許すこと。
深い愛情で、包んであげる、ということ。
奈緒は、マスターの言葉の本当の意味が理解できた瞬間、なぜか体の中に広くて深い夜の海が広がったような感覚になった。
それはとてもおおらかで穏やかな感覚だった。
奈緒は阿久津の手をしっかりと握り、まっすぐ阿久津を見つめ。
「先生。私には、先生のつらいこと、全部はわからないと思います。だけど、はんぶんこなら、きっとできる」
そう言うと、奈緒は優しく微笑んだ。
阿久津は、はっと目を見開き、奈緒の顔をじっと見つめた。
そして、奈緒をぐいと引き寄せ、ぎゅっと強く抱きしめた。
「……ありがとう」
阿久津の頬に一筋の涙が伝っていた。