それでも、愛していいですか。
阿久津は、奈緒の手をしっかりと握りしめたまま、語り始めた。
「由美は、うつ病だったんです」
「うつ病?」
奈緒は深刻な病名に固唾を飲んだ。
「俺と由美と隼人。ごくごく平凡な家庭でした。ところが、突然、本当に突然、隼人が9か月の時に病気で亡くなってしまってから、少しずつ歯車が狂いだしました」
阿久津は天井を仰ぎ、大きく深呼吸した。
「由美は生真面目な性格で、ずいぶん自分を責めていました。自分の管理が悪かったんじゃないか。助けることができたんじゃないか、とね。だけど実際のところ、もちろん由美のせいでもないし、誰のせいでもないんです。なのに……」
「なのに?」
奈緒は阿久津の顔をじっと見つめた。
「ある日、俺の父が由美に言ったらしいんです。『君はちゃんと管理していたのか?』と」
「そんな……」
奈緒が思わずそう言うと、阿久津は苦笑した。
「ひどいですよね。俺も自分の父親だけど許せませんでした」
阿久津はため息をつきながら、先日の弱りきった正太郎の姿が一瞬脳裏をかすめた。