それでも、愛していいですか。
「だけど、せっかく両思いになれたのに、離れ離れになっちゃうんだね」
「うん……」
そう。
それが、少し心配だ。
きっと大丈夫だと思っていても、つい不安になってしまう。
すると、視線を感じたのか、阿久津は学生をかき分けるようにして奈緒に近づいてきた。
「卒業おめでとうございます」
そう言うと、阿久津は穏やかな笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
奈緒は周りの目が気になって、阿久津の顔を見ることができなかった。
すると阿久津は、突然奈緒に顔を近づけたかと思うと、そっと耳元で、
「謝恩会が終わったら、俺の家に来てください」
と囁いた。
「え……」
奈緒が思わず顔を上げた時には、阿久津はまた学生の輪の中へ戻っていった。
そこに取り残された奈緒は、耳元に残っている阿久津の声のせいで、真っ赤になってしまった。