それでも、愛していいですか。



奈緒は阿久津に言われたとおり、マンションに向かおうとしたが、はかま姿は目立ちすぎると思い、いったん帰宅した。

そして、いつもより少しおしゃれな服を着て、マンションへ向かった。

風はまだ少し冷たい。

ふと、立ち止まり空を見上げると、空は青く、高かった。

空気が澄んでいる。

いつもの公園のブランコが、なぜか懐かしく感じる。

こんなに澄み切った気持ちで、この景色を見るのは初めてかもしれない。

こんなに色鮮やかに見えるのも、初めてかもしれない。

奈緒は、しっかりとした足取りで、阿久津の待つ場所へ向かった。



マンションの入口で、阿久津の部屋番号を押すと、阿久津は「どうぞ」と言ってロックを解除してくれた。

エレベーターに乗りながら、奈緒は家に招かれた理由を考えた。

二人で卒業パーティーとか、いいな。

自分に都合の良い甘い期待をしながら、阿久津の部屋の前まで来ると、一度深呼吸をして、チャイムを押した。

< 294 / 303 >

この作品をシェア

pagetop