それでも、愛していいですか。
なにもなくなった部屋を見渡した。
あの、思い出が詰め込まれた部屋も、がらんどうになっている。
鼓動がどくんと大きく波打った。
先生は、あの思い出たちと、向き合ったのだ。
それはいったいどんな作業だったのだろう。
どんな気持ちだったのだろう。
私にはわからない。
わからないけれど、先生はこれでよかったのだろうか。
無理をしていないのだろうか。
「大丈夫、ですか?」
奈緒は、例の部屋の方を見つめる。
「俺は、今も、これからも、生きなければならないから」
「でも……」
「これで、よかったんだ。君はなにも心配しなくていいんだよ」
阿久津は眉を下げる。
一生懸命、今を生きようとする先生の姿に胸がいっぱいになる。
抱きしめたくなる。
それと同時に、なんだか由美さんに申し訳ない気持ちになる。
「先生」
「ん?」
奈緒は阿久津に向き直り。
「先生の大切な人は、私にとっても大切ですから。それだけは……忘れないでください」
阿久津は一瞬目を見開き、そして奈緒をぐいと引き寄せ抱きしめた。
「……ありがとう」