それでも、愛していいですか。

「あ」

それは阿久津だった。

そして、その後から真っ黒な髪のロングヘアの女性がついて来るのが見えた。

その女性も喪服を着ている。

ということは、あの黒髪の女性は奥さんなんだろうか。

夫婦でお葬式に出席した帰り、といったところだろうか。

奈緒は、ただただ呆然としてしまった。

さっきまで浮かれてワンピースを選んでいたのは、いったいなんだったのだろう。

そうだ。冷静になって考えてみれば、阿久津先生くらいの歳なら結婚していても全然おかしくないのだ。

我ながら、自分の浅はかさが嫌になった。

ぼんやりと大人な二人を眺めていると、会計を済ませた阿久津と目が合った。

思わず目を逸らせたがどこにも逃げ場がなく、とっさに立ち上がり、「こんにちは」と頭を下げた。

阿久津は奈緒と孝太郎を一瞥し、「ああ、こんにちは」と、それだけ言って店を出て行った。

黒髪の女性も奈緒に軽く頭を下げ、阿久津の後をついて行った。

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