それでも、愛していいですか。
「お待たせいたしました。席がご用意できましたので、どうぞ」
愛想のいい店員の声が耳に入ってはいたが、ぼんやりとしたままそこから動けずにいた。
孝太郎に「行こ」と促され、ようやく案内された席に着く。
「あれが、お前がきれいに見せたい相手か?」
抜け殻のようになってしまった奈緒に、孝太郎はいつになく真剣な口ぶりで尋ねた。
静かにうなずくと。
「なるほどな」
孝太郎はそれ以上なにも尋ねなかった。
「なんか、馬鹿みたいだね、私」
すると、孝太郎は少し考え、
「……別に、馬鹿みたいじゃないよ」
と優しく言った。
そして、「好きなものは、しょうがないさ」と。
奈緒は唇をきゅっと結んだ。
「まあ、せっかく来たんだから、好きなもん食えよ。もう、しょうがねぇなぁ。ここは俺がおごるから」
「うん……そうだね!おいしいの、食べよ!」
奈緒は努めて明るく振舞った。
「おう、食え食え!」
孝太郎の優しさが胸に染みた。