それでも、愛していいですか。
奈緒は加菜の素直な行動力をうらやましく思いながら、おもむろにボンボン時計を見上げると、夜の9時を回ったところだった。
そろそろかな、と思った矢先。
カランカラン――
店の扉が開いた。
「こんばんはぁ~」と言って店内に入ってきたのは、予想どおり、奈緒の通う短大の君島准教授だった。
彼はこの店の常連で、しょっちゅうやって来る。
いつものカウンター席の一番隅に迷わず座った。
「こんばんは、先生」
「こんばんはぁ、奈緒ちゃん」
君島が奈緒に顔を近づけると、強烈なお酒のにおいが鼻を突き刺した。
「うわっ。先生、いっぱい飲んだでしょう?」
「だってぇ~。飲みたかったんだも~ん。飲まずにはいられなかったんだも~ん」
まるで子供が駄々をこねるような口ぶりで甘えた。
だってぇ~、って。
仮にもあなたは准教授なんですから。
この姿を見ていると、短大でのあの姿が信じられなくなる。