それでも、愛していいですか。
「でもな、奈緒ちゃん。あの男はやめておけ」
その声は静かだったが、鋭かった。
「え?」
君島はつかんでいた腕を離して、腕を組み。
「阿久津先生の目だよ。僕はあんな哀しい目、見たことがない。あれは相当凍ってるぞ。よほどのことがあったことくらい、簡単に察しがつく」
「はぁ……」
確かに。
凍ってる。
それはわかる。
しかし、そのよほどのこと、とはなんだろう。
なにがあったのだろう。
マスターはそのやり取りを知ってか知らずか、カウンターの中で君島スペシャル(カフォオレ砂糖たっぷり)を静かに作っていた。