それでも、愛していいですか。
「知っていますか。人は二度死ぬそうです」
と、阿久津が淡々と言った。
「二度、ですか?」
奈緒が、どういうことだろう、という顔をすると。
「はい、二度。一度目は身体が死んだとき。二度目はその人のことを語る人が誰もいなくなった時です。ですから、おばあさんのことをいつまでも語ってあげてください」
その言葉にどきっとした。
思わず顔をはっと上げた。
眼鏡越しに見えるあの切れ長の目が、少しだけ優しく見えた。
阿久津先生のこんな目を初めて見た。
こんな優しい言葉をかけてくれるなんて。
優しかった祖母の笑顔が、もう一度浮かんだ。
いつもにこにこしていて、いつも味方をしてくれた祖母は、奈緒にとって駆け込み寺的な存在だった。
祖母の思い出と阿久津の優しい言葉に、さらに目頭が熱くなる。
涙がこぼれ落ちそうになり、ブランコの鎖をぎゅっと握り締めてうつむいた。
すると、阿久津が奈緒の目の前に立った。
黙って奈緒を見下ろしている。
頭上に阿久津の視線を感じて、鼓動が早くなった。