それでも、愛していいですか。

「泣きたい時は泣きなさい。そういう我慢は必要ない」

奈緒の気持ちとは裏腹に、阿久津はさらりと言った。

目に溜まっていた涙が、ほろりとこぼれ落ちた。

その様子を阿久津は黙って見ていたが、しばらくして、ふと奈緒に歩み寄った。

すらりと長い脚と奈緒の膝が少し触れ合った。

阿久津は奈緒の頭に手を乗せ、髪を優しく撫でた。 

鼓動が激しく波打っている。

このまま、先生の胸に飛び込んでしまいたい。

先生の胸に顔をうずめてしまいたい。

そんな衝動に駆られたが、できなかった。

「ありがとうございます。大丈夫です」 

無理矢理笑顔を作って、そう言っていた。

阿久津は奈緒をまっすぐ見つめている。

「家は、この近くですか?」

「え?あ、はい」

「送ります」

「……え?」

「気持ちが不安定な女性に、こんな夜遅くに一人で帰りなさいとは、言えません」

「はぁ……」

奈緒はあっけにとられてしまった。

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