それでも、愛していいですか。
バイトに行ったら行ったで、君島にも同じようなことを言われた。
「奈緒ちゃん、なんか悩んでるでしょ。顔に出ちゃってるよ」
カウンターに頬杖をついて、奈緒を見る。
「私だっていろいろあるんです」
そう言って奈緒は君島の前にお水を出した。
「奈緒ちゃんには似合わないなあ、そういうの」
似合わないと言われても。
進路は未定なうえに、諦めなければならない恋にはまだまだ未練が残っている。
すっきりさせられるものなら、私だってすっきりさせたいのだ。
「いい言葉を教えてあげよう」
そう言って君島は、エヘンと咳ばらいををし、
「シンプル イズ ベスト だ」
と言った。
「え?」
「あのな。みんなよく言うだろ?『複雑だ』って。あれ、違うんだよ。複雑にしてるのは、他の誰でもない自分なの。自分の頭の中であれこれ考えて物事を複雑にしてるだけ。単純に考えればいいんだよ。自分がしたいようにすればいい。すべきことをすればいい。それだけで、9割はうまくいく」
君島は、目を伏せると「今、僕、いいこと言った」という顔をして、一人うなずいている。