それでも、愛していいですか。

それを見て君島は、チっと舌打ちをし、

「なんだよ。僕がいると都合が悪いのか?」

と言った。

奈緒も心の中で、君島と同じことを思った。

「マスター」

「ん?」

「マスターは阿久津先生のこと、知ってるんですか?」

「知ってますよ。彼はここの常連でしたからね。そう、ちょうど今、君島先生の座っている席が、阿久津くんの指定席でした」

そう言って君島の方を向くと、「僕だけの癒しの場じゃなかったのかぁ……」とがっくりした様子で、カウンターをすりすりと撫でた。

「なんで、今日、突然来たんだろ……」

奈緒が独り言のように呟くと、マスターは「気が向いたんじゃないですか」と静かに言って、奥に引っ込んでしまった。

これ以上突っ込んではいけないような気がした奈緒は、それ以上マスターに尋ねられなかった。

結局。

また気になることが一つ増えてしまった。





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