それでも、愛していいですか。
「私は、妻を殺したのだよ」
淡々と語ったその言葉に、言葉を失った。
奈緒は阿久津の顔を見たまま、動けなくなっていた。
「人の心配なんて、軽々しくするもんじゃない」
そう言った阿久津の声と目は、今までにないほどに冷たかった。
凍った視線に射抜かれた奈緒は、
「すみません……」
と消えそうな声で呟き、逃げるように研究室を出た。
怖かった。
阿久津准教授という人が、怖くてたまらなかった。
奈緒は早歩きで校舎を出、アパートまで無我夢中で走った。
アパートの扉をバタンと閉めると、倒れるようにベッドにうつ伏せになった。
心臓が嫌な音を激しく立てる。
聞いてはいけなかった。
触れてはいけなかった。
自分なんかが太刀打ちできるような人ではなかった。
肩で息をしながら、目には涙が浮かぶ。
どうしよう。秘密なんて、知らなきゃよかった。
シーツをぎゅっと握る。
まさか、本当に奥さんを?
凍った阿久津の顔が脳裏に浮かぶ。