それでも、愛していいですか。
思い出の場所
数日後。
喫茶店「金木犀」の扉には「CLOSED」の札がかかっていた。
その扉の取っ手を阿久津は握っていた。
カランカラン――
閉店後の暗い店内に鐘の音が鳴り響くと、奥で片付けをしていたマスターが顔を出した。
「阿久津くん」
「まだこの時間なら、いらっしゃると思って」
「どうぞ」
マスターは穏やかな笑顔で阿久津の指定席だった壁際の席を指した。
「久しぶりですね」
「すみません……ここは思い出が多すぎて……足が遠のいていました」
阿久津が伏し目がちにそう言うと、
「……そうですね」
とマスターは静かにうなずいた。
「元気にしていましたか?」
「ええ……まぁ」
阿久津は、壁にもたれて大きなため息をついた。
「なにか、飲みますか?」
「ああ、ありがとうございます……すみません」