それでも、愛していいですか。
新しい住人
3月下旬、アパートの敷地に植えられている桜のつぼみが膨らみ始めていた。
この季節は、アパートの住人の出入りが激しい。
卒業して地元へ帰る人、胸ふくらませて引っ越してくる新一年生。
新しい季節の到来だ。
今日も単身用の引越屋のトラックが、アパートの前に止まっている。
奈緒は、部屋着のまま朝からだらだらと過ごしていた。
なにもしないこの非生産的な時間の過ごし方は、学生の特権だなと思う。
ぼんやりとテレビを眺めていると、ベッドに置いてあった携帯が突然鳴ったので、うんと腕を伸ばした。
「もしもし?あ、俺」
「あ、孝太郎」
「俺、さっき、こっちに着いたんだ」
「そうなんだあ。お疲れ」
「なあ。窓から下、見てみ?」
「ん?」
窓を開けて下をのぞくと、そこには携帯片手に手を振っている孝太郎がいた。
「ええぇ!?なんで!?」
「なんでって、俺、今日からここに住むの」
「うっそぉ!」
「嘘なわけないだろうが。こんだけ荷物持ってきてんのに」
そう言って孝太郎は、親指でトラックを指差した。