それでも、愛していいですか。
奈緒は、目の前にいるラフな服装をした阿久津に少しドキドキしながら、美咲のその言葉に愛想笑いで返した。
阿久津は女同士のそのやりとりを聞いているのかいないのか、自分の名前が出ているにも関わらず、ジーパンのポケットに手を突っ込んだままぼんやり突っ立っていた。
「じゃあ、私たちはこっちだから。またお店にも来てね」
美咲がそう言うと、阿久津は奈緒に目だけで「じゃあ」と言った。
奈緒はドキッとして、思わず目をそらせてしまった。
それを見た美咲は、さりげなく阿久津の腕に自分の腕を絡ませ、「行こ」と促した。
大人な二人の後姿に、胸が痛む。
その場に取り残された奈緒と加菜は、呆然と二人の後姿を見送っていた。
「ささ、私たちも帰ろ」
「う、うん。そうだね」
加菜は、少し唖然とした様子で。
「あの人、なんか、すごいね」
「ね。なんか、すごいよね」
自分が感じた美咲の押しの強さを、加菜も感じたようだ。