それでも、愛していいですか。

あっけに取られて忘れていた足の痛みが、ぶり返してきた。

足も痛いし、胸も痛いし。

なんだか、もう、あちこちが痛い。

奈緒は指の間を鼻緒から少しずらして、下駄をカランコロンと鳴らしながらやる気なく歩いた。

……もう、やめよう。

この恋は、終わりにしよう。

私は阿久津先生のことを、なにも知らない。

過去になにがあったのか、阿久津先生がなにを背負っているのか、なにを考えているのか、なにも知らない。

たまたま、劇的な出会い方をしたから。

たまたま、優しい言葉をかけてくれたから。

だけど。

本当は、危険な人なのかもしれないのに。

それに。

秘密を共有しているだろう美咲さんに、自分なんかが太刀打ちできるわけがない。

……きっと、つらいだけだから。

だから、もう、やめよう。

忘れよう。

それがいい。





< 92 / 303 >

この作品をシェア

pagetop