それでも、愛していいですか。
あっけに取られて忘れていた足の痛みが、ぶり返してきた。
足も痛いし、胸も痛いし。
なんだか、もう、あちこちが痛い。
奈緒は指の間を鼻緒から少しずらして、下駄をカランコロンと鳴らしながらやる気なく歩いた。
……もう、やめよう。
この恋は、終わりにしよう。
私は阿久津先生のことを、なにも知らない。
過去になにがあったのか、阿久津先生がなにを背負っているのか、なにを考えているのか、なにも知らない。
たまたま、劇的な出会い方をしたから。
たまたま、優しい言葉をかけてくれたから。
だけど。
本当は、危険な人なのかもしれないのに。
それに。
秘密を共有しているだろう美咲さんに、自分なんかが太刀打ちできるわけがない。
……きっと、つらいだけだから。
だから、もう、やめよう。
忘れよう。
それがいい。