お猫様の言うとおり
一章:黒猫
猫がやってくる。
だいぶ年老いているような、弱々しい足取りの黒猫。
いつも決まった時間に現れて、木陰に横になる僕の脇に擦り寄ってくる。
最初は、その猫の甘えが気に食わなくて、苛々した。
僕を恐れない態度、媚びているような甘え方、
「…お前、自分を可愛いと思ってるだろう?」
首根を掴んで、ムスッと言うと、
黒猫は素知らぬ顔で欠伸する。
「…ムカつく奴…。」
いくら嫌っても、その猫が来ない日はなかった。
それから数ヵ月後、ありきたりな名前を猫につけた。
「…また来たの、"クロ"。」
名を呼べば、ミャーと一声鳴いて、また僕の脇にすりよってきた。
やっぱり僕は、この猫が嫌いだった。