お猫様の言うとおり
「あのね、兄さん、今夜は兄さんの好きなビーフシチューにしようと思うんだ。」


照れたようにそんなことを言う康介。昼間からわざわざ電話でいうことじゃないだろう。


「ふうん、そうなんだ、いいね。おまえが作るの?」


母さんの退院が望めなくなった頃から、家事は真面目な康介が引き受けていた。

父さんは医師であったために忙しく、家事まで手が回らなかった。でも、決して冷たい人間ではない。



「いや!僕じゃなくて…、父さん3人で、外に食べに行こうかって。」




康介が明るい口調で言う。

気を遣ったような、明るい声で。


「うん。」


優しく返事をした。

“早く帰るように”と、念を押す康介の言葉を、どこか遠くに感じながら、

優しく、優しく返事をして、電話を切った。





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