お猫様の言うとおり

父と弟は、僕と違って優しく、素直な人間だ。


だから、僕は向き合いたくなかった。



彼らは傷ついている。悲しみにとらわれて、捨てることもできずに、苦しんでいる。


“逃げたい”、そう思っている僕に、

“逃げてはいけない”という現実をつきつけるのは、彼らの姿。


だから僕は、向き合いたくなかった。




「ニャウ。」

クロの声に、ハッと我に返り、下から見上げるクロを見た。


クロは、体全体を僕の膝の上にまかせて、眠る体勢に入ろうとしていた。

「こら、動けないじゃないか。」



僕が怒っても聞かなくて、ただ、膝にクロの体温が伝わって温かかった。



“逃げたい”と思っていても、結局の所僕は、“捨てたい”とは思っていない。


「放課後までには、起きてよね。」


怖くて動かなくなる足を温めて、行かなきゃならないときまで、力をためよう。

上手い受け止め方を知らないから、今はこうするしかないんだ。









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