お猫様の言うとおり
一つ、彼女は僕と同様、クロに餌を与えたりしない。
クロを撫でながら、いろんな話をしているだけだった。内容は、よく聞こえないけど。
もう一つ、彼女はクロのことを、“クロちゃん”と呼ぶ。
そう、僕と同じ呼び方だ。
一ヶ月以上も同じ猫を可愛がって、呼び名に一つもつけないほうがおかしいかな。
もちろんありがちな名前ではあるけど、何の示しあいもなく、同じ名前をつけてると知った時は、少し胸が高鳴った。
…いや、“ビクッとした”といった方が適切だろうか。
しかし、何で彼女はこんな所へやってくるのか。
―なにか事情があるのか?―
不思議には思っても、やっぱり思うだけ。
幸い彼女は、僕の存在には気づいていないから僕が邪魔をされることはないけど、
彼女の事情を知る術もなかったからだ。