お猫様の言うとおり
―「…見つからないね。」
「うん…。」
遠目からだけど、外見の年の頃から予想して、在学中のものから過去10年間の名簿を探したけど、“トオコ”は見つからなかった。
少なくとも、彼女はこの高校の生徒でも、卒業生でもないようだ。
「兄さん、その人はどんな人なの?」
名簿を片付けながら後ろの康介に尋ねられて、僕は少し黙って考えた。
どんな人かと聞かれても、知ってることなんかわずかなことだ。
「…そうだなぁ…、ネコ好きな人。」
「へぇ。」
相変わらず笑う康介。いったい何が面白いのか分からないし、不快だ。
「それじゃ、今日もこれから用事あるの?」
とたずねられて、あまり深く考えずに相槌をうった。
「僕は、病院に寄ってから帰るから、じゃあ後でね…。」
部屋を出ようとする康介に、
「…母さんによろしく。」
背を向けてなんとなく、そう声をかけた。
「…う、うん!」
暫しの間をおいて、裏返った声で返事をして、弟は走り出て行った。
たぶん驚いたのだろう。僕が自分から、母さんのことを口に出すのは久しぶりだったから。
今は、そんな気分だったんだ。